公正証書遺言のすすめ(兄弟間の争い)

遺言書を書こうというときに注意していただきたい点がいくつかございます。
今回は、実際にあった一つの事例をもとに注意点のいくつかをご紹介したいと思います。
このケースでもし公正証書遺言を残していなかった場合、恐らく相続手続きを進めることができなかったであろうと考えられますので、遺言書作成の参考にしていただければ幸いです。

 

  • 【 目 次 】

    登場人物

    お父さん(10年前に死亡)
    お母さん(今回の被相続人)
    子・Aさん(相続人)
    子・Bさん(相続人)子・Cさん(相続人)

  • 事例

    この度お母さんが亡くなり、相続人は子であるAさん、Bさん、Cさんの3人。
    主な資産は戸建ての自宅と預貯金。
    Cさんは、お父さんの相続時にお母さん、Aさん、Bさんとの間で揉め、それ以降連絡をとっていない状態だった。
    Aさんが今回の相続の件でCさんに久しぶりに連絡をとったところ、Cさんはお父さんの相続の件を蒸し返すなどし、協力が見込めない。
    お母さんは生前に公正証書遺言を残していた。

  • 遺言書の内容

    自宅を売却し、売却で得た現金を兄弟に1/3ずつ遺贈する(いわゆる清算型遺贈)
    預貯金を全て解約して、その金額を兄弟で1/3ずつ相続させる
    遺言執行者をAさんとする

遺言書の内容は、資産を兄弟で1/3ずつ分けよという内容です。
これは法定相続分のとおりですから、仮に遺言書がなくても同じ配分で財産を受け継げます。
それでは遺言書を書く必要はなかったのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はそうではありません。
相続人間で揉め事がある今回のようなケースでは、遺言書が手続きを進めるための非常に有効な手段となりえます。
今回のポイントは3つあります。

ポイント

  1. 遺言執行者を定めていたこと
  2. 公正証書遺言だったこと
  3. 遺留分を侵害しない内容だったこと

それぞれを詳しく説明いたします。

1.遺言執行者を定めていたこと

遺言執行者を定めていなかった場合、遺言書の内容を実行するための手続きは原則として相続人全員で行わなければならなくなります。
今回の場合でいうと
1.不動産(お母さんのご自宅)の相続人への相続登記(清算型遺贈の場合、この登記も必要になります)
2.不動産売却後の買主への所有権移転登記
3.預貯金の解約手続き
以上3つを兄弟3人が協力してやらなければなりません。
ただ、Cさんが協力してくれるかが非常に怪しい状況でした。
Cさんの協力が得られなかった場合、最終的には費用と手間と時間をかけ裁判を起こすことを検討しなければならなくなります。
しかし、遺言執行者を指定することで、遺言執行者であるAさんが単独で3つの手続きを進めることができます
※3の預貯金の解約手続きについては金融機関によってはスムーズにいかない場合もございます

2.公正証書遺言だったこと

遺言書は主に公正証書遺言か自筆証書遺言で書かれることがほとんどです。
自筆証書遺言の方が簡単に、費用もかけずに書くことができますが、公正証書遺言の方が手続きがスムーズに進む場合があります。
それは、預貯金の解約の場面です。
金融機関によっては、自筆証書遺言の場合は遺言書だけでは解約手続きに応じない場合がございます。
金融機関の内部規程によるようですが、自筆証書遺言の場合は遺言書自体が無効になるリスクもあり、より慎重な取り扱いがされる場合が多いです。
自筆証書遺言があっても相続人全員の実印による押印と印鑑証明書の提出を求められる金融機関もあり、その場合、手続きのスムーズさにおいては遺言書を書いた意味が薄れてしまします。
Cさんの協力が得られなかった場合、その口座は凍結されたままになってしまいます。
それに比べ公正証書遺言の場合は、遺言作成時に公証人という法律のプロが係わっており、改ざんなどのリスクもないことなどから、遺言書の信ぴょう性が高いと評価でき、遺言執行者が単独で手続きを進められる可能性が高いです。
今回、Cさんを関与させる可能性を極力減らすためには公正証書遺言である必要がございました。

3.遺留分を侵害しない内容だったこと

兄弟姉妹以外の相続人には遺留分という、相続によって受け取ることができる最低限の権利が決められています。
今回でいうと、Aさん、Bさん、Cさんとも遺産のうち各1/6の割合を下回る遺産しか受け取ることのできない内容の遺言だった場合、ほかの相続人に対して1/6になるまでの差額を支払えと主張することができます。(遺留分侵害額請求権という)
今回、仮に「Aさん1/2、Bさん1/2ずつ相続させる」という内容だった場合、後になってAさんやBさんが、Cさんから遺産をよこせと法律上正当な主張をされる可能性が残ることになります。
家族間で揉め事がある場合、もしかすると特定の相続人の相続分を0にしたり、遺留分を侵害する内容の遺言書を残したいというお気持ちになるかもしれません。
たしかに、遺留分を侵害する内容だからといって無効になるわけではありませんし、そのお気持ちもわかります。
ただ、後になってより大きな揉め事に発展し、心を痛めるのは相続人の方々になりますので、遺留分に関しては一度冷静に考えていただき、行き詰ったときには専門家へのご相談をお勧めいたします。

注意点

今回は公正証書遺言があったおかげで、相続手続きにおいては、Cさんを関与させずにAさんのみで進めることができます。
しかし、相続手続きが済めばそれでよいのかというと、もちろんそうではありません。
今回このまま手続きを進めた場合、完全に蚊帳の外に置かれたCさんがもっと大きな揉め事を起こす可能性も0ではありません。
法律上できることと、人間関係、家族関係の中でしておきたいこととは、残念ながら完全にリンクするものではありません。
ときにはいろいろなリスクを踏まえながら行動しなければならないこともあります。
当事務所ではそういったリスクもできる限り想定し、ときには他士業の先生のお力もお借りしながら、ご家族の未来を少しでもよりよいものにするためにご相談には誠心誠意向き合います。

投稿者プロフィール

鈴木 章宏
鈴木 章宏
池袋に事務所を構える司法書士。
不動産の相続登記や遺言の作成支援など、相続手続きに力を入れています。
相続は事前に準備をしておくことで救われることが多くあります。
一人でも多くの方が相続の事前準備の重要性を知り、ご家族の明るい未来を作っていけるような社会にすべく、有意義な情報発信をしていきたいと思います。